発生主義会計と期間損益計算

会計を報告するためのルール(規則)は色々ありますが、その規則のベースには”発生主義”という会計の考え方があります。発生主義の考え方を理解する事は、会計を学ぶ上でとても大切です。そして発生主義会計は、現金主義会計から発展したものですので、現金主義会計とセットで発生主義会計を学ぶとより理解も深まります!!

発生主義会計と現金主義会計

現金主義会計とは

現金主義会計では、現金が増えればその分儲かっていると考え、現金が減っていればその分損していると考える会計です。家計簿やお小遣い帳は、このような考え方ではないでしょうか?家計簿やお小遣い帳は、現金主義会計的な帳簿と考える事ができます。

現金主義会計では、現金収入に基づいて収益認識し、現金支出に基づいて費用認識し、両者の差額として利益が計算されます。

しかしこのような現金主義会計の考え方では、色々な問題があるため、企業の会計では発生主義会計で行うよう義務付けらています。

 

発生主義会計とは

発生主義会計では、現金主義会計と異なり、現金が増えたからといって利益を出ているとは考えませんし、現金が減っているからといって損しているとも考えません。経済価値の増減で収益と費用を認識、その差額で利益を計算するのが発生主義会計とされています。

発生主義会計では、経済価値の増加に基づいて収益認識し、経済価値の減少に基づいて費用認識し、両者の差額で利益が計算されます。

では、経済価値の増減とは具体的にどのような事でしょうか? 下記に2つほど例示して説明します。

例えば、500円で仕入れた商品が1,000円で売れたとすると、その売れた時が、経済価値が増加した時であり(500円の物が1,000円で売れたので経済価値が500円増えたと考える事ができる)、売上(収益)を認識(計上)するタイミングとなります。

例えば、20万円で購入した会社のパソコンが壊れて使えなくなってしまったとします。ちゃんと動けば20万円の価値があるパソコンですが、壊れて使えなくなってしまってはその価値はほとんど無くなります。この壊れて使用できなくなった時が、経済価値が減少した時と考える事ができ、費用を認識(計上)するタイミングとなります。

 

【補足説明】収益と費用と利益

上記のコンテンツの説明では、収益と費用と利益という言葉が使われています。これらの言葉は会計用語ですので、言葉の定義を理解する事はとても大切ですが、会計の勉強はじめとして、このコンテンツでは下記のようなイメージでとらえておいて下さい。

  • 収益 … 売上は収益の一部です。会計の学びはじめの時期は、収益は売上のようなイメージでとらえておいて良いと思います。
  • 費用 … 費用は、日常生活で使用してる費用とほぼ同じ意味でとらえておいて良いと思います。
  • 利益 … 収益 - 費用です。収益から費用を控除した残りが利益です。

会計を学んでいないと"収益"と"利益"は同じ意味と思われがちですが、会計的には収益と利益では言葉の定義が異なります。収益から費用を控除した残りが利益ですので、この違いはここで理解して下さい。収益と利益の違いを明確にする事は、会計を学ぶ上では基本となります。

【補足説明】認識と測定

会計の勉強を進めていくと、"認識"と"測定"という言葉に遭遇する事があります。この2つも会計用語で、言葉の定義を理解する事はとても大切ですが、このコンテンツでは、下記のようなイメージでとらえておいて下さい。

  • 認識 … 収益と費用がいつのものなのか決める事です。認識するとは収益と費用を計上するタイミングを決める事です。
  • 測定 … 収益と費用がいくらなのか具体的な金額を決める事です。

発生主義会計と現金主義会計

このコンテンツでは、現金主義と発生主義の違いをより具体的に理解できるように、いくつか例示して説明します。

例1:10月1日に1個1,000円の品目Aを10個販売し、代金は翌月末(11月30日)に支払ってもらう事にした。

現金主義会計で考えた場合

現金主義会計では、売上を現金で回収した日に認識します。そのため現金主義会計ではこの取引の売上は11月の売上になります。

発生主義会計で考えた場合

発生主義会計では、売上を取引の事実に着目し、品目Aを販売した時点で認識します。そのため発生主義会計ではこの取引の売上は10月の売上になります。

【補足説明】売掛金

商品を売り上げ、代金を後日受け取る事を”掛売上”といい、売上を後日受け取る権利が発生します。この権利を”売掛金(Account Receivable)”といいます。

 

例2:10月1日に1個500円の品目Aを100個仕入し、代金は翌月末(11月30日)に支払う事にした。

現金主義会計で考えた場合

現金主義会計では、仕入を現金で支払った日に認識します。そのため現金主義会計ではこの取引の仕入は11月の仕入になります。

発生主義会計で考えた場合

発生主義会計では、仕入を取引の事実に着目し、品目Aを仕入した(実際に物を受け入れした)時点で認識します。そのため発生主義会計ではこの取引の仕入は10月になります。

【補足説明】買掛金

商品を仕入れ、代金を後日支払う事を”掛仕入”といい、支払代金を後日支払う義務が発生します。この義務を”買掛金(Account Payable)”といいます。

 

例3:2XX1年1月1日に火災保険料5年分合計60,000円を一括して支払った。

現金主義会計で考えた場合

現金主義会計では、60,000円の保険料を支払った2XX1年に全額60,000円の費用となります。

発生主義会計で考えた場合

発生主義会計では、5年間の保険という事で、2XX1年に12,000円、2XX2年に12,000円、2XX3年に12,000円、 2XX4年に12,000円、2XX5年に12,000円と費用を5年間にわけて計上します。

 

例4:2XX1年1月1日にiDempiere用のサーバーを320,000円で購入した。5年間使用する想定で、5年後の価値は20,000円と見積もっている。

現金主義会計で考えた場合

現金主義会計では、支払った2XX1年に全額320,000円が費用となります。

発生主義会計で考えた場合

発生主義会計では、5年間使う予定で5年後の価値を20,000円と見積もっている事から、その間に目減りした300,000円を使用期間の5年間で按分して費用処理します。

【補足説明】減価償却( Depreciation )

建物など長期間にわたり使用する事が前提で購入されるものを”固定資産”といい、多くの固定資産は、その使用期間(耐用年数)で、費用を按分します。この事を減価償却(げんかしょうきゃく)といいます。減価償却により按分される費用を減価償却費(Depreciation Expense)といい、減価償却費の計算には、定額法(ていがくほう)や定率法(ていりつほう)などいくつかの計算方法があり、企業は選択できるようになっています。

【補足説明】 発生主義会計では取引によっては会計処理が複数存在し、選択する事ができます

減価償却費の計算方法は、定額法や定率法などいくつか存在し、企業が選択適用する事ができます。このように、取引の中には会計処理の方法が複数存在し、企業が選択適用する事ができるものがあります。

現金主義会計の問題点

現金主義会計の大きな問題点は、業績評価のための適正な期間損益計算が行えない事です。期間損益計算(きかんそんえきけいさん)とは、企業の活動を一定期間に区切って、利益もしくは損失を計算する事です。

会計では、企業の活動を一定期間(通常1年)に区切って、各期間毎に、記録/計算/報告を行います。この一定期間の事を会計期間(会計年度、事業年度)といいます。

現金主義会計では、現金を支出した時に費用を認識しますので、例えば、5年分の保険料60,000円を前払いした時には、支払った年の費用として5年分の保険料60,000円が全額計上されてしまいます。そうすると、保険料を支払った年はその分利益が少なくなり、他の年の利益は多くなる事になります。

しかし普通に考えると、5年間で60,000円の保険であれば、毎年12,000円ずつ費用計上する方が当たり前ではないでしょうか?発生主義会計は、この考え方であり、会計的にどのように記録すれば、実態にあった記録ができるか考えてルール作りがされているのが発生主義会計とも言えます

発生主義会計というと難しそうに感じてしまうかもしれませんが、発生主義会計は、実態に即した会計処理を行い、正しく期間損益計算を行うのが目的であり、色々ある細かなルールも、発生主義会計の目的に照らし合わせて考えれば、会計理論的には理にかなったものになっており、ひとつひとつのルールは単純で簡単に理解できるものが多かったりします。

【補足説明】投資家にとっても重要な期間損益計算

適正な期間損益計算は企業の利害関係者にとってとても重要です!! 例えば、投資家であれば前期→当期→翌期とその会社の利益の増減を会社の成長の指標として投資判断の参考にする事も多いでしょう。その際に、期間損益計算が適正に行われていないと年毎の業績を比較して検討する事ができず、投資家は投資判断を誤ってしまうかもしれません。

発生主義会計の問題点

現金会計には業績評価のための適正な期間損益計算が行えないという大きな問題点あるため、現在は発生主義会計が採用されています。それでは、発生主義会計は完璧なのでしょうか!? 実は、そうではありません。発生主義会計にも問題点があります。発生主義会計の問題点を理解する事は、現行の会計制度を理解する上でも重要です。

絶対的に正しいわけではない発生主義会計

発生主義会計では、経済価値の増減で、収益と費用を認識し、その差額で利益を計算します。それでは、経済価値の増減とは、いつ、どこで、何をもって行われたとされるのでしょうか? ここには、「あいまいさ」があり「人の判断」が必要になってきます。

例えば、売上を認識するタイミングも発生主義会計では、下記のようにいくつも考えられます。

  • 商品の売買契約が成立した日
  • 顧客の注文により商品に手を加えた日(オプション部品の取り付けなど)
  • 商品を発送した日
  • 輸出の場合の船積み日
  • 顧客に商品が到着した日
  • 顧客が検収した日
  • 約束の代金回収期限が到来した日
  • 代金を回収した日        などなど…

上記のようないくつもある売上の認識タイミングの中から、企業は実態に即したものを選択して会計処理を行う事になります。期間損益計算で計算される利益の金額を考えた場合、どの基準で売上を認識するかは、年毎の利益額に影響を与えます。

つまり、発生主義会計で計算される利益は絶対的なものではないのです。発生主義会計では、売上の計上タイミングの他にも、減価償却費の計算方法のように、いくつかある会計処理方法の中から処理方法を選択できるようになっており、どれを選択するするかで期間損益計算の利益額は変わってくるのです。発生主義会計で計算される利益は"だいだいこれくらいが今年の利益です"という意味合いの数値であり、絶対的なものではないのです。

絶対的な利益額の計算という観点であれば、現金主義会計は理想的です。現金の収支という客観的な事実から利益を計算しますので、人の判断は入らず、誰が行っても金額が変わる事はありません。

しかし現金主義会計には適正な期間損益計算が行えないとう致命的なデメリットがあります。発生主義会計には「あいまいさ」があり「人の判断」が必要になるものの、取引の実態に即した記帳ができ、業績評価のための“期間損益計算”が行えるメリットがあります。発生主義会計には絶対的な正しさはありませんが、相対的な正しさはあるとされ、現在の会計制度は発生主義会計がもとになっています。